2018年1月14日日曜日

流通する以上の紙幣の増加によって、戦時中生産が容易となり、劣った土地が容易に耕作されたので、平和回復後の滞貨と低物価を増すようになった。

   金紙の開き以上に出る通貨の価値変動が、どの程度までイングランド銀行正貨支払い制度条例および正貨支払い制度への復帰に帰せられかは、なかなか容易にはいえない。紙幣は金と平価を維持していたのであるが、通貨が前戦時下ではなはだしく下落し、平和回復に伴う諸事情のもとではなはだしく騰貴しているであろうということ、これにはすこしも疑うわけにはいかない。金と平価で流通する以上に出る紙幣の増加によって、戦時中生産が容易となり、劣った土地が容易に耕作に付されたので、それが平和回復後の滞貨と低物価を増すようになったことが、おそらく唯一の差異であったろう。
 けれじも平和回復後の土地所有者に対する重圧がどんなであったろうと、公債所有者を犠牲にして償いをもとめようとする試みに対しては、土地所有者にはいささかの弁解もなりたたない。運はめぐりあわせであるから、あらゆる党派は公明正大に振舞うべきである。どんな階級の人でも、不正な恥ずべき手段を講じて、他をおとしいれ、自己の繁栄をはかろうとするのでは、正しいとはされない。とりわけわが国の土地所有者たちは、こんな手段を考えおよんではならない。今日どんな迷惑をこうむっていようと、かれらは、疑いもなく、自分たちの苦境を救ってもらう権利があると考えている当の人たちにくらべると、はるかに大きく通貨の価値変動の利益に均霑してきたからである。
トマス・ロバート・マルサス「価値尺度論」(白)