2016年7月25日月曜日

十字軍と回教の惨殺と流血

 十字軍は全般的事情につながり、西欧キリスト教世界の指導者が、もはや皇帝ではなくて法王である事を示した。十字軍は、西欧帝国の東方に対する偉大な共同企業なのである。もし一人の世俗的君主のもとに着手されたら、組織的な軍事行動を求めている。十字軍は宗教的な見地から出発した。聖墓を奪還する単純な目的から出発した。
 回教帝国はローマ帝国の廃墟の上に出来た。十字軍の運動の先頭には法王自身が立っていた。法王は不信者に対する征伐を勧説し、「神の思し召しだ」という叫びのもとにすべての者が十字架をとった。宗教的、世論的、教権利的動機の相合が働いていた。
  第一回十字軍はサラセンの国土に向かって殺到した。言語に絶した艱苦ののち、エルサレムを征服し、一つの王国を建設した。宗教的衝動は、一見矛盾するような諸様相の混合物となって現れた。征服された聖都のサラセン住民はおびただしい群をなして惨殺され、聖跡は流血にまみれた。これらの騎士の団体は、次第に背後のヨーロッパに拡がり、おびただしい財産を寄付させられた。十字軍に加入することを一種の名誉とした。
  回教国によって蹂躙される運命にあった。回教国の教主が没落しても宗教的諸侯にすぎないものになると、回教国は事実上の実験を掌握した。十字軍はまさに破滅に陥り、その事態が事実となって起こった。回教国は、滅亡せしめながら勢力を拡大した。
  重なる十字軍ではなんらの成果を収めなかった。善アジアが一体となって十字軍に対抗した。そもそも十字軍は、非計画的な経過をとったがために、その直接目的を達成しなかった。しかし、きわめて重大な意義を有する数々の間接の結果をもたらした。それは西欧全体に耐えることのない強固な統一の意識を与えた。これからひきつづく東方に対する衝動を生み、教会の首長に驚くべき優越性を与えた。
 法王立ちにとっては、エルサレムに対する企てが成功しなかったことは、好都合であった。すなわち法王等は、ヨーロッパをいつまでも法王等の目的のために駆り立てる口実を得た。

レオポルト・フォン・ランケ「世界史概観」