2017年9月3日日曜日

さすがは世界一憲法国だけあって小丘の名まで皇室と人民とを一様に俯瞰する。

 ピカデリー通りの片側に、芝原の傾斜地がある。それをコンスチチューション・ヒル即ち「憲法が丘」と名付けたのは、いささかに木に竹を接いだ感がある。この傾斜地の直ぐ下は大英帝国肯定の常住の御殿、バッキンガム宮になっているので、ロンドン(倫敦)人にすら解決の附かぬ問題が僕には忽ち釈然と解ってしまった。即ち英国人の人民は憲法が丘から皇室を監視しようとするので、バッキンガム宮殿に臨むこの小丘に厳しい名をつけたのである。パーリアメント(巴力門)の乗員へ行って見ると、玉座の頭の上にジョン王を威嚇して大憲章(マグナカルタ)に調印せしめた18人のバロンが、毘沙門天のような風采で、王座を睨み下して、イザといえば飛び降りて、手にする槍を突きつけそうな見幕を示している。僕はこれを見て、この王座に座る皇帝の心理状態は、少しく皇帝的心理状態を懸離れたものたらざるを得ないと思った。しかも更にロンドン(倫敦)全体を瞰下す市の北方にある一小丘にパーリアメント(巴力門)の名を下して、皇室と人民とを一様に俯瞰するものは、パーリアメント(巴力門)丘である事を示した。さすがは世界一憲法国だけあって小丘の名までコンスチチューショナルに出来ているのは関心と申す外はない。
長谷川 如是閑「ロンドン(倫敦)! ロンドン(倫敦)?」