2017年9月14日木曜日

少なくとも位階とか称号とが、普通人の眼には、貧困者はつまらぬものに見えるのである。

 外面的の幸運の事情の内にも、少なくとも人間の謬見によって、これ等の感情を起させるものがある。門閥や称号やを、人々は普通尊重する傾きがある。功績に基づかないで得た富も亦、利己的でないものからすら尊敬されることがある。これは察するに、富の観念と、これによって仕遂げることのできる大事業の計画とを結びつけるからであろう。斯かる行為を決して為ないであらうし、また富を価値づける唯一の根拠たる高貴の感情に何等理解を持たない金持の賤夫共に、此尊敬の与へられることも、折々はある。貧困の禍を大きくするものは、其貧困者に社会的の功績があった場合でも、全く帳消しにして了ふことはできないで、つまらない者とすることである。少なくとも位階とか称号とがあって此粗末な感情を欠き、其人を幾らか尊敬せしめる様な事がなければ、普通人の眼には、貧困者はつまらぬものに見えるのである。

イマヌエル・カント (一般人類に於ける崇高と美との性状について) 「美と崇高との感情性に関する観察」