2017年9月21日木曜日

世界征服者が戦捷の行軍の日、領土の境界から貢をまぬがれている民をして貢せしめる。

 古い時代の世界征服者が、戦捷の行軍の急速のある一日、その領土の境界を一層詳しくたしかめ、貢をまぬがれている民をして貢せしめたり、或いは砂漠にあって摩下の騎兵隊の打ちかち難しい困難を知り、自分の威力の一つの制限をしらそうと欲するでもあろうように、吾々の時代の世界征服者である自然科学が、その祝宴の機会に祭し、日頃の仕事を休んで、領土の真の限界を一度はっきり画取ろうと試みることも妥当を欠いた企画ではないであろう。かくいうのは、現在自然認識の限界について二つの誤謬が広くゆきわたっていることを信じるからであり、且又私の試みようと如き考察が、一見平凡なことであるにかかわらず、以上の誤謬とは何等関わりのない人達に対しても、幾分の新しい寄与をするということもまた有り得ないことではないと思うため、なおさらこの試みを正当なものと考えるからである。

デュボア・レーモン「自然認識の限界について・宇宙の七つの謎」