2016年6月17日金曜日

人間不平等と戦争

 自然の不平等が組み合せによる不公平等ともに知らずしらずの間に発展し、状況の相違によって発展した人々の間の相違は、その成果の点で一層に著しくなり、同じ割合で個々の人間の運命に影響した。自尊心は利害に目覚め、理性は活発になり、精神は可能な限りの完成の局地に達しようとする。それらの素質は人々の尊敬を引き寄せる事が可能となるので、自分の利益のためには、それが存在するか、存在するふりをする事が必要になる。
 この区別のため、いかめしい威厳と欺瞞的な策略、お共をうけるあらゆる悪徳が出てくる。無数の新しい欲求のために、同胞に屈従するようになり、同胞の主人になりながら、その奴隷となっている。支配と屈従、あるいは暴力と略奪が生まれた。富める者は、支配する快楽を知ると、新しい奴隷を服従させるために古い奴隷を使い、隣人たちを征服し、隷属することしか考えなくなる。
 強い者、弱い者が、力または欲求を、他人の財産に対する一種の所有権とするので、その均衡が破られると続いてもっとも恐ろしい無秩序が到来する。富める者の横領と貧しい者の略奪と、万人の淫らな情念が、人々を強欲に、野心家に、邪悪にした。
 強者の権利と最初の所有者の権利の間に、はてしない紛争が起こる。それは闘争と殺害とによって終息するほかなくなる。社会はこの上もなく恐ろしい戦争状態になる。堕落し、悲嘆にくれる人類は、もはやもと来た道に引き帰すこともできず、不幸にして自ら獲得したものを捨てることもできず、自分の名誉となる諸能力を濫用することによって、自ら滅亡の前夜に臨む。
 悲惨な状態について、富者は自分たちだけがその一切の費用を負担する恒久的な戦争が不利益であるとすぐに感じる。戦争では、生命の危険があるだけでなく、財産の危険は個人的である。富者の横領は、単に一時的で不当な権利が盾なので、略奪されても文句をいう理由をもたない。そのため富者は、すべてを相互に対抗して武装させ、所有以上の負担の大きい状況、安全を見出せない恐怖を与える。その弊害を富者は予感してもそれを利用とする。利益を感じれても、その危険を見通す事ができない。若干の野心家が利益のために、以後の人類を労働と隷属と貧困に服従させたのである。

ジャン・ジャック・ルソー「人間不平等起源論」





ジャン・ジャック・ルソー