2016年12月8日木曜日

永遠の戦争は市場の優先権を争う

 古への封建君主は、農夫が其収穫の四分の一を領主に納むるに非ざれば、一塊の土を掘返すのも厳禁した。吾人は之を見て恥辱と呼ぶではないか。然り吾人は実に此時代を以て未開の時代と呼で居る。而も見よ、其形式は変じても、実際の関係は以前今日に存続した。労働者は自由契約の名の下に、猶ほ封建的義務を承諾せねばならぬ。彼はいずれかの方角に向かっても決して優等の境遇を発見することは出来ぬ。万物尽く私有財産となった、彼は承諾せねばならぬ、否ずんば餓死せねばならない。
 事情如此くなるの結果、現時の生産は総て不良の方向に赴くこととなる。企業はあたかも社会全体の必要てふことを考えぬ。其の目的は唯だ投機師の利益を増すてふことのみである。而して来る者は即ち市場の不断の変動、工業の時々の恐慌、其度毎に幾万人の労働者は路頭に迷う。
 労働者は其賃金では、彼等自身が生産した富を買うことができぬ。工業は即ち外国の市場を求めて他国民の富裕階級中に販路を得ねばならぬ。東洋において、アフリカに於いて、エジプト、東京若しくはコンゴー、到る処に欧州人は斯くして農奴制の発生を助長することとなる。而して彼は其を断行する。而も彼はまた到る処に同様の競争者のあることを発見する。いずれの国民も皆な同一の経路に展開する。而して戦争、永遠の戦争は、市場の優先権を争うが為に破裂する。嗚呼、東洋諸国を有せんが為の戦争、海上帝国を建設するの戦争、輸入品に課税し及び隣邦に条件を指令するの戦争、反逆せる『黒人』に対する戦争! 世界に大砲の響き絶ゆる間はなかった。幾多の種族は尽く屠戮せられて跡を絶った。欧州諸国は軍備の為に予算の三分の一を費やしている。而して吾人は知る、是等の租税が如何に重大なる負担を労働者の頭上に落下し来るかを。

ピョートル・クロポトキン「麺麭の略奪」