2016年12月12日月曜日

帝国主義は愛国心を経となし

 我国民を膨張せしめよ、我版図を拡張せよ、大帝国を建設せよ、我国威を発揚せよ、我国旗をして光栄あらしめよ。これいわゆる帝国主義の喚声なり。彼らが自家の国家を愛するや深し。
 英国は南阿を伐つてり、米国は比律賓を射てり、独逸は膠州を取れり、露國は満州を奪えり、仏国はファショダを征せり、伊太利はアビシニアに戦えり。これ近時の帝国主義を行うゆえんの較著なる現象なり。帝国主義の向かうところ、軍備、もしくば軍備を後援とせる外交のこれに伴わざるなし。
 然りその発展の跡に見よ、帝国主義はいわゆる帝国心を経となし、いわゆる軍国主義を緯となして、もって織り成せるにあらずや。少なくとも愛国心と軍国主義は、列國現時の帝国主義は、列国現時の帝国主義が通有の条件たるにあらずや。故に我はいわんとす、帝国主義の是非とりがいを断然と要せば、先ずいわゆる愛国心といわゆる軍国主義に向かって、一番の缺格なかるべからずと。
 しからば即ち、今のいわゆる愛国心、もしくば愛国主義とは何者ぞ、いわゆるパトリオチズムとは何者ぞ。吾人は何故に我国家、としくば国土を愛するや、愛せざるべからざるや。

幸徳 秋水「帝国主義」