2017年5月14日日曜日

分子集合である有機体制の生命の活動は死により停止される。

  有機体制の活動、すなわち内型の力が死によって停止せしめられると、体の分解がこれに続行する。しかし、有機分子は依然として残存し、体の解体と腐敗において釈放され、他の内型の力によって接収されるや否や別の生物体内に移行する。言わば、有機分子なるものは、毫も変化することなく、生物体に栄養と生命とをもたらす永劫不易の性質を保持しつつ、動物体より植物体へ、または植物体より動物体へと移行しうるのである。
 ただ、内型の力が無力である合間には、すなわち有機分子が分解した死体の物質内で開放され、しかもそれが動植物の普通の種を構成する有機体によって吸収されるに至らない合間には、無数の自然発生が生起する。つねに活動的である有機分子は腐敗した物質に衝動を与えようと努め、この物質から原質粒子を獲得し、これらの粒子の再結合によって無数の小さい有機体を生成する。
 この有機体の或ものは、みみずやきのこなどのごとく相当大きい動植物として出現するが、他のものは顕微鏡によってはじめて観察しうるほど小さく、数はほとんど無限である。これらのすべてのものは自然発生によってのみ存在し、生命ある単純な有機分子と動植物の間の間隙を埋めている。
ルイ・パストゥール「自然発生説の検討」