2017年5月6日土曜日

武器は敷物に野営し戦死を気にかけず注意を集め誉めて受け継ぐ

 子路が強さについておたずねした。先生はいわれた、「南方の強さのことかね、北方の強さのことかね。それともお前の得意とする強さのことかね。心やたかな柔らかさで人びとを教え導き、でたらめな相手にもこちらの節度を守ってしかえしをしたりはしないというのが、南方の強さである。君子の行動はそれによっている。
 武器や甲・冑を敷物にして野営をかさね、戦死することも気にかけないというのが、北方の強さである。お前の考える強者はそれによっているのだ。
 そこで君子は、もの柔らかく人びとと和合しながら、しかも節度を曲げて人に流されるようなことはない、しっかりとして強いことだ。中正の立場に直立して少しも偏らない、しっかりとして強いことだ。国じゅうに道徳が行われてその身が栄達したときも油断なく平生の節度を変えることはない、しっかりとして強いことだ。国じゅうに道徳が行われないで困窮したときも死ぬまでその心がまえを改めない、しっかりとして強いことだ。」
 先生はいわれた、「わかりにくいはっきりしないことをむりにさぐり出したり、風変りな奇怪なことを行ったりすると、人の注意を集めて、後の世にそれを誉めて受け継ぐものも出るだろう。だが、わたしはそういうことはいない。君子は道を規準として行動するものだ。たとえ力及ばず途中で挫折することがあるにしても、わたしには道を守るのをやめることはできない。君子は中庸に依りそってゆくのである。世間に背を向けて隠遁し、だれにも知られずに終わっても悔いることがないというのは、これはただ特別の聖者だけにできることだ。それもわたしの望むことではない。」

「中庸」第2章第4節(朱子) 曾参・子思『大学・中庸』