2017年5月4日木曜日

死との戦いに勝てる従者、復讐の念、愛、名誉、悲しみ、恐怖、あわれみ

   哲学者で自然人としてのみ語ったセネカが、「死そのものより、むしろ死に付随するものが人を恐れさせる」と言ったのは至言である。うめき声、ひきつり、青ざめた顔、泣く友人たち、黒の喪服、葬式などが、死を恐ろしいものに見せる。人間の心の中にあるどんな情念も死の恐怖を負かして支配できないほど弱くはないことは注目に値する。それゆえ、人が死との戦いに勝てるほどの多くの従者を引き連れている時、死はそれほど恐ろしい敵ではない。復讐の念は死に打ち勝つ。愛は死を軽んずる。名誉はそれを願う。悲しみはそれに逃げ込む。恐怖はそれを先取りする。それどころか、皇帝オトーが自害すると、あわれに思って、あわれみが感情の中で最もやさしい感情である、多くの人が主君に対する純一な同情から、いわば最も忠誠なお供として殉死した、ということが書かれている。
 さらにセネカは気むずかしさと飽きやすさをつけ加える。「君がどんなに長い間、同じことをしてきたかを考えてみたまえ。勇士とか不幸な人とかが死を願うばかりでなく、気むずかしい人も願いかねない」。人間は勇敢でも不幸でもないにもかかわらず、ただ同じことを何度も繰り返すのにうんざりした結果、死を欲するだろう。
フランシス・ベーコン「ベーコン随想集」