2017年5月31日水曜日

苦しみを不断につつづけさせ、不断に新たな苦しみをかきたてるように、たえず新たな攻撃を加える。

  あらゆる方法で憎悪心をとぎすましながらも、わたしの迫害者は、そのはげしい憎悪のためにかえってひとつの方法を忘れていた。それは、効果をだんだんとつよめていき、わたしの苦しみを不断につつづけさせ、不断に新たな苦しみをかきたてることができるように、たえず新たな攻撃を加えるということだった。もしもかれらが巧妙に、いくらかでも希望の光を残しておいてくれたなら、それによっていまでもわたしを捕らえていたにちがいない。なにか好餌をもってさらにわたしをなぐさみものにしたうえ、すぐにわたしの期待を裏切って、また新しい苦しみをあたえ、わたしを悲嘆に暮れさせることもできたろう。
 ところがかれらは、初めからあらゆる手段を使いはたしてしまった。わたしはなにひとつ残しておくまいとして、自分たちもいっさいすることがなくなってしまったのだ。かれらがわたしに浴びせかけた罵詈、誹謗、嘲笑、汚辱の雨は弱まることはないにせよ、いっそう激しくなることもありえない。かれらは、それをさらに重大なものとすることはできないのだし、わたしはそれからのがれることはできない。どちらも同様に打つ手がない。かれらはあまりにも性急にわたしを不幸のどん底に追い込もうとしたために、いまでは人間に可能なかぎりのことをして、地獄のあらゆる狡知の助けをかりようとも、このうえできることはなにひとつなくなっている。肉体的な苦痛をあたえるとしても、それはわたしの苦悩を増すことなく、かえって苦悩忘れさせてくれるだろう。悲鳴をあげさせるかもしれないが、嘆息する機会は少なくしてくれるだろうし、身体の痛みは心の痛みを忘れさせてくれるにちがいない。

ジャン・ジャック・ルソー「孤独な散歩者の夢想」