2017年5月22日月曜日

寡頭政治の世の中は同罪の死刑に巻き込む様なことを命じる。

 まだ国家に民主政治が行われている頃に起こった事である。しかるに寡頭政治の世となったとき、「三十人」はまたもや私を他の四人と共に円堂に召喚してサラミス人レオンをサラミスから、死刑に処せんがために連れて来ることをわれわれに命じた。彼らは、できる限り多くの人を自分達と同罪に巻き込まんとして、他の多くの人々にもしばしば同じ様なことを命じたのである。
 その時にもまた私は、言葉によってではなく、実行によってーもしこういういい方があまり粗野に失しないならばー自ら死は寸毫も顧慮しないが、これと反対に、不正と瀆神の行為を避けることは何よりも重視する者であることを証示した。あれほど強大な権力を持っていた政府も、私を威嚇して何らの不正も行わしめることができなかった。そうして私達が円堂を出てから、他の四人はサラミスへおもむいてレオンを連れてきたが、ひとり私は家に帰ってしまったのである。もしある政府がその後に、追いかけて崩壊しなかったら、恐らく私はそのために生命を失っているに違いない。またこの事については多くの人が諸君に証言するであろう。
プラトン「ソクラテスの弁明」