2017年5月5日金曜日

平和とは戦争とは何か。

 平和、それは、一政治社会が享有するー国内では、その成員間によき秩序が支配することによって、国外では、互いによく和合しあって他の諸人民と共生することによって享有するー安寧である。
 戦争は、人間の腐敗の果実であり、政治体のけいれん性の重病である。政治体は、平和を享有するときにのみ、健康状態、すなわちその自然状態にある。国家に力をあたえるのは平和である。平和は、市民のあいだに秩序を維持し、法律に必要な力をあたえ、人口増加、農業、商業を促進する。一言でいえば、平和は、すべての社会の目的である幸福を人民に得させる。
 戦争は、これに反して、国家の人口を減少させ、国内に無秩序を支配させる。戦争がもたらす放縦にたいしては、法律は沈黙を余儀なくされる。戦争によって、市民の自由と財産は不確実となり、商業は混乱し等閑にふされ、土地は耕されず放棄される。いかなる国家であろうと、もっと目ざましい勝利でも、戦争の犠牲となった多くの成員の損失の埋め合わせをつけることは決してできない。その勝利そのものの国家にもたらす重傷をいやし得るのは、平和のみである。

ダミラヴィル「平和 Paix」

ドゥニ・ディドロ、ジャン・ル・ロン・ダランベール『百科全書』