2016年11月10日木曜日

戦争で市民は涙を絞り苦しむ

 戦争のために種々の変遷ありたり、戦争ありて、急にこの社会に対した要ありと覚えざる軍人輩が、急に社会に持てるようになるのは言うまでもなく、軍備の拡張せられたる結果は、にわかに貧乏世帯の日本政府の歳出八千万円(現在の3,400億円)は、三倍にして二億四千万円(現在の1兆2000億円)の巨額にのぼり、
 小作人の涙を絞る地租増税となり、労働者を苦しむ消費税賦課となり、なかにも塩もしくは米と等しく日用品なる醤油税法案は遠慮もなく国会の議題にのぼり、気楽なる議員諸公はなんの異議もなくこれわ可決したまい、思想の交通を制限する郵便税も可決せられ、かくのごとくにして終わることなければ、後日塩にも米にも税を課する到るやも知るべからず、こわや、これ戦争の結果が社会に与えたる影響の著しきものなり。
 戦争の結果は、政治上影響ありたるのみならず、これに関係する政治家、国会議員などいう連中の公聴に与えたる影響も被る大なり、昨年衆議院の解散せられたる時、弁当代を払わざる議員は五十七名ありと聞けり、議員先生が弁当代を払わざるを異しむなかれ、
 今の政治家という人達は、人民の利益降伏をはかるために、政治界に働くにあらずして、あたかも労働者が賃金を欲して労働に従事するが如く、今の政治家、国会議員は私利をむさぼらんがために、国会議員てふ資格の便宜あるを機として借りに政治家という職業に従事せるのみ、常に政府党は政府案に盲従し、反対党は一もニもなく反対して、その間に議論を闘はすことなく、いつも待合にて協議せらるるを見るも、よくこれを知る得べし、賄賂公行せらるる固より怪しむに足るべからず、賄賂を取りて意見を売らざる小山久之助あり、むしろこの人の如きは今の政治界にては利口にしてしっかりした人なり、今の政治家、議員などいう連中は、とうとう皆意思の薄弱なる小山久之助のみ、ああこれ等しく戦争の結果なり、以前より忌むべき事実多かりしといえども、かくの如く甚しきことなかりしなり。

横山 源之助「内地雑居後之日本」