2017年11月5日日曜日

軍人の職業は、事実上及び本質上、人を殺すのではなく、人に殺されることにある。

 軍人の職業は、事実上及び本質上、人を殺すのではなく、人に殺されることにある。これに対して世間は、自分自身の真の積りはよく意識せずに、軍人を尊敬しているのである。凶漢の商売は人殺しであるが、世人は決して凶漢を商人以上に尊敬したことはなかったのである。軍人は自己の生命を国家に捧げていればこそ、世人は彼らを尊敬するのである。なるほど軍人は向こう見ずかもしれない、ー 享楽を好み冒険を好むかもしれない、ー また軍職を特に選択したのも実はあらゆる種類の副次的な動機や賎劣な衝動からであったかもしれない。したがってこれ等のものがその職業における彼れの日々の行動を( どう見ても見た所だけでは )左右しているかも知れない。しかし吾々の軍人に対する評価の根底には次の究極の事実 ー それは吾々が信じて疑わない所の事実 ー が厳存しているのである。もし彼れを要塞の破れた一角に置くならば、彼れの背後には浮世のあらゆる快楽があり、彼らの面前にはただ死と本分とのみあっても、彼れは断じて後を顧みないという事実である。実に彼れは何時何時自己の選択すべき生死の両頭が面前に置かれるかもしれないと常に覚悟している。ー 否、あらかじめ自己の死の役を引き受けたのである、ー 事実時々刻々そうした役を引き受けている、ー 否、実に「日々に死」んでいるのである。

ジョン・ラスキン (栄誉の基礎)「この後の者にも 」(経済の第一原理について )