死と共に神に属する魂は天に戻り全ての肉体は消滅する。
わたしは、魂は肉体と同時に滅び、死と共に全てが消滅する、というようなことを最近説き始めた連中には同意しないからな。わしには昔の人々の影響が強いのだ。それは死者にあれほどの聖なる権利を与えた先祖たちとかー死者にはそんなものは無関係だと考えたなら、先祖もきっとそうはしなかっただろうがー、かつてこの地に住み、今はなくなったが当時は栄えていたマグナ・グラエキアの人々に制度や訓言を教えた人々とか、アポローンの神託で最高の賢者と判定された彼の人とかだ。この人は時によってああも言えばこうみ言うことが多かったが、そうはせずに常に同じことを述べたのは、人間の魂は神に属するもので、肉体を離れるや天に戻ることになっている、そして心正しく秀れた人であればあるほど天への帰還は容易である、ということであった。
秀れた人であればあるほど、死んだ時その魂は容易に、肉体といういわば獄のいましめから飛び去るものであるなら、神々の許に到る道がスキーピオーほど容易であった人が考えられようか。それだから、彼に起こったことを悲しむのは、友人のすることというよりむしろ焼き餅やきのすることではないかと思う。
他方もし、魂の死と肉体の死は同じもので、後には何の感覚も残らない、というのがより真実に近いなら、死には何の善きこともないのと同様、何ら悪しきことがないのも確かだ。なぜなら、感覚がなくなれば、そもそも生まれなかったのと同じことになるわけだから。実際は、彼が生まれたことを嬉しく思うわれわれがいるし、この国も存在する限り喜びとするであろう。
マルクス・トゥッリウス・キケロー「友情について」