労苦と危険の報酬として美徳が求めるのは、他ならぬこの名誉と栄光という報酬だけだからである。
もしも名誉と栄光の報酬が取り去られたら、こんなにも取るに足りない、こんなにも短い人生において、われわれがこれほどの労苦に勤しむ意義が何かあるであろうか。言うまでもなく、もし心が後世のことを念頭に置かず、一生が終わるのと同じ時間の枠ですべての思考も終わるのであれば、そんなにも多くの労苦で身を苛んだり、そんなにも多くの心配や寝ずの努力で苦しんだり、自分の命をかけてそれほど何度も戦ったりするようなことがあるであろうか。ところが、優れた人々の心にはみな美徳が宿っており、夜昼となく栄光へと心を駆り立てている、そしてわれわれの名前は命とともに終わるのではなく、後の世までいつまでも残るのだということを訓告してくれるのだ。
マルクス・トゥッリウス・キケロ「キケロー弁論集」