2017年8月26日土曜日

近代という一時代の性格は開拓した個々の世界が分離した混乱である。

 まず近代という一時代の性格を説明することから始めなければならない。そしてそれは混乱であると言える。しかしこの混乱は、凡てのものにその秩序を論理的に追求して発達してきたヨオロッパの文明が、それが遂に一つの秩序をなすに至るものであるかないかとは関係なしに追及を続けたために陥った混乱であって、秩序を求める意志は初めから少しも変わらず、ただそうして開拓した個々の世界が各自の方向に従って分離するばかりであることが分かったからであるから、その時に起こった状態は決定的なものだった。それが解ったのが、近代だった。そしてこういうヨオロッパ的な好奇心に限界はなくて、それが何にでも向けられた成果を得たのであって見れば、近代になって、そこには秩序の他は凡てのものがあった。秩序、あるいはそれまであったはずの神はなかったとも言える。
吉田 健一「英国の近代文学」