2016年8月19日金曜日

平時は保護し戦時は徴兵する兵制

兵 制

 しかりといえども各地について徴兵の情を察するに、父母に別れ家郷を離れ、遠く戦地に苦役せらるるを悲しみ、規避百端、ついに泣訣し伍に入る者すくなからず。已に戦地にあっては、将校の節制を受け、奮前決闘をよく死を致すといえども、死報家にいたれば、親戚哀痛限りなく、老者あるいはこれが為に命永を縮むるに至る。新たに徴兵せらるる者は、これを視て規避をなすまた前日の比にあらず。かつ曰く、租已に軽からず、また戦いに没せられる。曰く、死傷すれば一家飢餓を免れずと。彼の少壮戦地にあって決死するの状は已に長上の視る所にして、父老の郷里にありて哀痛するの情は、未だ長上の知らざる所なり。
 その地出るの子、戦死して髪の毛家に到る、老父悲嘆ついに病に臥して立たずと。西賊の猛威なるに当てや、常兵の乏しからんを慮り、輩下の巡査を派遣し、また新たに召募し、その足らざるを補う。それ巡査は不慮をいさめ遺誡をただすをもって職とし、軍属の人あらず。故にその発遣の日、これを辞せんと欲して能わず、ゆうゆう途に上る者あり。軍給の平日より多きを利し、自ら出で切求する者あり。しかれども元と迫撃を好み拿捕を能くするの性質を有し、志願を以ってこの勤に服するを以て、賊を切り塁を抜き、毎々寡黙を奉するに至れり。即ち兵制や、平時は人民を保護し、事あれば近衛六類の羽翼となる。軍国に益する、あに少々ならんや。

木下 真弘「維新旧幕府比較論」(社会)