2016年9月21日水曜日

犠牲を軍艦に変える富国強兵

あゝ飛騨が見える厳しい冬将軍があたりを覆い尽くす頃、みねという名の製糸女工が野麦峠の長上で死んだ。
口減らしのため岡谷の製糸工場へ出かせぎに行き過酷な労働と折檻に耐え青春を過ごした。
明治政府が強引に推し進めてきた生糸を、軍艦に変える富国強兵政策を底辺で担ったのは、無数の女工たちであった。
女の生きるための哀歌であるとともに、数百の聞き書きによって浮き彫りにした素顔の日本近代史である。
無学の女性が大多数、産めよふやせよ、戦争の兵士にするために、青春時代を戦いにあけくれ敗戦となる。
人間は何のために生きているのか。
無智な親を持って我が身がいとおしいと過ぎた人生を語る。
仕事のできる人は幸せなりと、只一人泣く。

山本 茂美「あゝ野麦峠ーある製糸工女哀史」