2017年2月18日土曜日

戦争の野蛮な行いを安らかな平和をもって助ける

  女神よ、永遠の魅力を、私の詩に与えたまえ。その間中、戦争の野蛮な行いを、海といわず、あらゆる陸といわず、ことごとく眠らせ、休止させたまえ。死すべき人類を、安らかな平和を以て、助けることができるのは、あなた独りだけなのだから。というのは、戦争という蛮行を支配するのは、戦に強き武神であり(軍神の別称)、しかも武神は、あなたに対する恋の永遠の深傷にうちひしがれて、ますますあなたの膝の上に、身を投げ出すのだから。それのみかなお、滑らかな首を横たえて、見上げつつ、口を開いて、女神よ、あなたを見つめつつ飢えた眼に恋の思いをむさぼらしてやり、そのあお向きになった彼の息は、あなたの口の左右するままにまかされているのだから。女神よ、あなたの神聖な体の上に横たわる武神に、上から抱いて、あなたの口から、甘い言葉を注ぎかけ、世にあまねく知れわたる女神よ、ローマ人のために、安らかな平和の来るように乞いたまえ。祖国がこのように不安定であっては(第一期三頭政治直前の不安定な社会情勢をさす)。心を平らかにして、充分に、務めをはたすことは、私にはできないし、且つまた、メンミウス家の立派な子孫にとっても、このような時局に際しては、国家の福祉のために、政務から遠ざかっていないのだから。

ティトゥス・ルクレーティウス・カルス

「物の本質について」