2017年6月3日土曜日

開花した諸国民に重くのしかかる最大の害悪が戦争に由来する。

 我々は、開花した諸国民の上に重くのしかかるところの最大の害悪が、戦争に由来することを認めざる得ない、しかもそれは、現に行われている、或いは過去に行われた戦争の結果と言うよりは、むしろ将来の戦争のための軍備ーそれも永久に軽減されることのない、それどころか不断に増大しつつある軍備によって引き起こされるのである。実に国家の一切の力、その国の文化の一切の成果は、このことのために費やされているのであるが、しかしこれらの諸力や成果は、軍備のことさえなかったなら、更に大なる文化の創造のために用いられ得るところのものなのである。自由は、諸方において著しく阻害されているし、また本来ならば国家が個々の国民に致すべきいつくしみ深い配慮は、国民に仮借なく課せられる苛酷な要求に化している、しかもこの過酷さは、実に外寇の危険をおもんばかっての措置として是認されて居るのである。
 とはいえ諸国の文化にせよ、或いは公共体を形成する諸階級が緊密に結束して彼等の福祉を互いに促進し合うための協力にせよ、或いは植民にせよ、或いは法律による厳しい制限にも拘らずなお残されているほどの自由にせよ、これらのものがとにかく存在しているのは、常に忌み憚られている戦争そのものが諸国家の主権者を強要して人間性の尊重を止むなく認めざる得なくしたためにほかならないのである。
イマニュエル・カント「人類の歴史の憶測的起源」『啓蒙とは何か他四編』