2017年6月12日月曜日

戦争の如き、その最中には実に修羅の苦界となれども、平和に帰すれば禍を転じて福となし。

 政治固有の性質にして、その働の急激なるは事実の要用においてまぬかるべからざるものなり。その細目にいたりては、一年農作の飢饉にあえば、これを救うの術を施し、一時、商況の不景気を見れば、その回復の法をはかり、敵国外患の警を聞けばただちに兵を促し、事、平和に記すれば、また財政を修むる等、左顧右視、臨機応変、一日片時も怠慢に附すべからず、一小事件も容易に看過すべからず。政治の働、活発なりというべし。

 政治の働きは活発なるがゆえに、利害ともにその痕跡を遺すこと深からず。たとえば政府の議定をもって、一時租税を荷重にして国民の苦しむあるも、その法を除くときはたちまち跡を見ず。今日は鼓腹撃壌とて安堵するも、たちまち国難に逢うて財政にくるしめらるるときは、たままち艱難の民たるべし、いわんや、かの戦争の如き、その最中には実に修羅の苦界なれども、事、平和に帰すれば禍をまぬかるるのみならず、あるいは禍を転じて福となしたるの例も少なからず。 

福沢諭吉、政治と教育と分離すべし「福沢諭吉教育論集」