2017年6月17日土曜日

絶対静止空間は不要であり、絶対静止という概念に対応するような現象はまったく存在しない。

 光を伝える媒質に対する地球の相対的な速度を確かめようとして、結局は失敗に終わったいくつかの実験をあわせて考えるとき、力学ばかりでなく電気力学においても、絶対静止という概念に対応するような現象はまったく存在しないという推論に到達する。いやむしろ次のような推論に導かれる。すなわち、どんな座標系でも、それを規準にとったとき、ニュートンの力学の方程式が成り立つ場合、そのような座標系のどれから眺めても、電気力学の法則および光学の法則はまったく同じであるという推論である。この推論の1次の程度の正確さで、既に実験的にも証明されている。そこでこの推論をさらに一歩推し進め、物理学の前提としてとりあげよう。
 また、これと一見、矛盾しているように見える次の前提も導入しよう。すなわち、光は真空中を、光源の運動状態に無関係なひとつの定まった速さcをもって伝播するという主張である。静止している物体に対するマックスウェルの電気力学の理論を出発点とし、運動している物体に対する、簡単で矛盾のない電気力学に到達するためには、これら二つの前提だけで十分である。ここに、これから展開される新しい考え方によれば、特別な性質を与えられた絶対静止空間というようなものは物理学には不要であり、また電磁現象が起きている真空の空間のなかの各点について、それらの点の絶対的静止空間に対する速度ベクトルがどのようなものかを考えることも無意味なことになる。このような理由から光エーテルという概念を物理学にもちこむ必要のないことが理解されよう。
アルベルト・アインシュタイン「相対性理論」