2017年6月28日水曜日

軍事的侵略による、平時の民族移動等による異系交配から、一定の時期を経て、著変の時代が来る。

 異系交配は、軍事的侵略により、平時の民族移動により、また以前にはカースト的にそれぞれ閉鎖的であった諸階級が混交すること等によって行われる。かかる交配があってのち、一定の時期を経て、著しい天才輩出の時代、すなわち高い文化の時代が来る。そしてこの時代は、その基礎となった生物学的作用のつづくかぎり存続する。
 この文化が「死滅」するのには二通りの生物学的道程がある。一つは、この文化民族の繁殖力には支障がないが、交配によって得た精神上の酵素作用が尽き果て、その上、引きつづく長い期間の同系交配のために、精神の無気力な硬化がもたらされるもの、いわば中国型ともいうべきものであり、次は、生殖本能が文化のために害されて急速な人口の減少が起こり、その結果、崩壊の道程をたどるもの、いわば後期ローマ型とも称すべきものである。
 しかしこの二つの場合にも、土着の人種がさらに他の適当な人種と新たな交配を行うことによって、ふたたび新たな文化を建設し、天才時代を招来する可能性は生物学的に残されている。かつまた理論的には、このような過程が無限に繰り返され得るわけである。事実長命を保った古代文化、たとえばエジプト文化やアッシリア・バビロニア文化等は、このような交配の反復によって、同一地盤の上に文化を更新すること幾たびに及んだものである。

エルンスト・クレッチマー『天才の心理学』