2017年6月19日月曜日

一切の奴隷制度は人種と場所による遺伝と気候という二個の基本的条件のみに左右されると誇った。

 一切は人種と場所、換言すれば遺伝と気候という二個の基本的条件に左右されるのであるが、更にこれをアメリカ合衆国の南部と北部との対照について見るに、その気候の及ぼす影響は一層大きいようである。奴隷制度が北部に繁栄するに至らなかった理由は、最も敬神的なる清教徒達ですら奴隷を有していたのであるから、それに対する道徳的反対のあったためではなく、むしろ気候の関係上諸制度が不利益であったからである。不断の刻苦勉励によらなければ生活を維持することのできぬような気候であって、かつ白人が異常の努力をしている所において、奴隷を養うことは経済上収支償はなかったのである。
 けだしかかる能力不十分な奴隷の労働では、その身を養うことすらできなかったので、その主人の利益とはならなかったからである。これに反して南部においては能率の低い黒人の労働すら、その身を養って尚あまりある生産をなしていたから、奴隷制度は有利であった。加うるに南部の白人は精励せず、その肉体労働は黒人のそれよりも大して価値あるものではなかったから、彼らは勢いその優秀なる頭脳を使用するに止め、肉体的労働は黒人をしてこれにあたらしめる習慣を作るに至った。もし清教徒がジョージア州に居住していたとしても、恐らく彼等は肉体労働を軽蔑し、奴隷所有者たることを誇りとするに至ったのであろう。

エルズワース・ハンチントン「気候と文明」