2017年10月24日火曜日

武士が政権を握ったのは武力の優越ではなく、土着の農家として土を支配し土から富を支配した。

 江戸時代になると、同じ血をわけた一族同胞の中でも、専門の武士となった人々はあっさりと土と縁を切って城下町に住む都会人となり、村に居残って専門の農業となった人々を「土百姓」とさげすみ、ただ年貢をとりたてたるほかに用のない者と思うようになったのでした。侍と百姓とがまるで別々の世界に住む、別々の人種のようになっていたことは、この村の草分けの時代と面白い対照をしているように思われます。
 武士が政権を握ったのは単なる武力の優越によるのではなく、土着の農家として土を支配し、土から生ずるいっさいの富を支配してたから、つまり土に根をはった強い経済力の上に立っていたからでした。それが単なる都会の消費者となり、生産には無関係、無関心となり、しかも生活程度は高まり、農村から取り立てた物を費やすばかり。したがって農村を衰微させるとともに、他方では商業の発達によってその方に生血を吸い取られて痩せ細る一方でしたから、結局大黒柱には白蟻のついていた同様の武士の政権が、黒船のひと揺すりから、あっけなく傾き出したのも不思議ではありませんでした。
山村 菊栄「わが住む村」