2017年10月9日月曜日

我々は自分達が意識的にはどうにもできない幻の中を動いているのだ。

 我々は眠りに落ち入ると薄暗い古代の影の棲家に入る。覚醒時のあの外界からは何の直接光線も照らしてくれぬ。我々は、我々自身の自覚的な意欲なしに、その部屋々をあちこちと連れて行かれる。我々はそのカビの生えた朽ち果てた階段を転がり落ち、神秘に満ちた奥深い所から来る不思議な音や香りに付きまとわれる。我々は自分達が意識的にはどうにもできない幻の中を動いているのだ。我々は再び日常生活の世界に浮かび上がって来ると、一瞬陽の光が、我々が後に閉める戸の閉ざされぬうちに、薄暗い家の中にちらっと射すように思われる。そこで我々は今まで中をさま迷っていた部屋々を、まざまざと垣間見るのだ。そしてごくわずかながら、今までその所で送っていた生活についての多少の断片的の記憶がよみがえってくるのである。
ハヴロック・エリス (緒論) 「夢の世界」