2017年10月5日木曜日

古代の信仰に対し、直ちに近代の思想の立場よりこれを律するは不公の甚しき者也。

 古代の信仰に対し、直ちに近代の思想の立場よりこれを律するは不公の甚しき者也。当時においては有する自然の力は、神聖なりと思惟されき。就中創造生殖の力は、その最高位を占める者なりき。光熱をもて土地を受胎せしむる太陽を崇拝するも、動物界における一般生殖の源たる男女の生殖器を崇拝するも皆なこれ生々の力を崇拝するのに外ならず、かくして吾人は有ゆる古代の彫刻において、男女の生殖器が、自然のままにもしくば表号的に描写せらるるを見ん。しかしてこれらの描写の方法もまた文明の進むに従って、ますます習俗的になり、技巧的となり、諸種の改良修補を加へ、すなわち幼稚の世界においては、創世記にいわゆる『裸体にして恥ざりき』者、長じるに及んで、あるいは人間の形を着け、さらに宗教的表号をもってこれを飾る。しかもその者は服装のために変化せざるが如く、縦令妙なる表号をもっておおうも、その思想観念は依然として同一なるを知らざる可らず。

幸徳 秋水「基督教抹殺論」

明治天皇の暗殺計画の冤罪で1911年1月24日に大逆事件の死刑となった。