2016年6月12日日曜日

暗黒日記

  何人の頭の中にも、現下の最大の問題点が陸海軍の統合融和にあり、そこにはまず省改変のメスが下されるはずたと考えているのに、一言もこれに言及するものはない。
 問題がなくなると「統制強化」「宣伝機関の一元化の必要性」「発注の徹底的一元化」といった具合に一元化を説いている。「一元化、一元化で戦争終わりにけり」
 日本は何をめがけて大きくなったろう? 戦争そのものだというのは明らかに嘘だ。戦争をやると何かが達成すると考えるから戦うのだ。征服欲というのも不完全だ。征服して何を求めるのか。やはり、日本的なものを世界の布こうという考えと、それからそれにより自己が利益とようとの二つだろう。日本人は干渉好きだ。しかし何か行動によってこれをなすことはしない。例えば昨日、電車の中で網の上に鞄を載せようとしたのを何人も手助けしない。日本人の干渉は思想的なものに対してだ。
 英米人は干渉嫌いだ。しかしそれは思想に対してであって、他が困っている場合にこれを助ける。町で考えこんでいると「何を探すんですか。」といって必ずヘルプしようとするのはその例だ。電車の中でも必ず助ける。とすれば干渉は同じだ。相違は「何をめがけて?」という点に帰する。それは習慣と傾向の相違といっていいだろう。
 二等車には必ず土木請負人のような野卑な連中が乗っている。第一次世界大戦の時にいわゆる成金が日本を一変させた。今度も同じである。資本主義の欠点は確かにそこにある。しかし社会主義化、共産主義化しても別の弊害がある。要は教養の向上のみ。

1943年10月
清沢 洌