2016年8月4日木曜日

取囲む生殺の権利の暗雲

 父親と君主との間、生活難の重荷を負わされている貧者と更に一層苦しい悩みの下にため息をつく富者との間、無知な女と不評判な博識家との間、惰眠を貪る者とあの鳶のような力が全世界に影響する天才との間に溝渠がある。
 しかし高い地位にある一方の人に純粋な人間らしさが欠けているならば、そこでは暗雲が彼を取り囲むであろう。ところが賤しい伏屋にあっても陶冶された人間らしさは、純粋な気高いそして足るを知る人間の偉大さを自分から放射する。
 だからたとえ高い位にあって、一人の君主が彼の囚人のために賢明な正しい法律を渇望しても、おそらく彼は黄金の一杯はいった財布をその経費として浪費することになるであろう。ところがもし彼が軍事会議において、自己の家の内部においては、また狩猟局と税務局とにおいて、人間らしさを発揮し、自己の家の内部においては純粋な親心を発揮するならば、彼は彼の囚人の裁判官や守衛を賢く真面目にそして父親らしく陶冶するようになるであろう。
 こうしたことがないならば、聡明な法律の文句も無情な人の口にする隣人愛の言葉と選ぶところはない。君主よ、汝はおそらく汝の求める心理の浄福からそのように遠く離れているであろう。
 ところが汝の脚下の塵埃の中にいる世の父親たちは、不良な息子たちを賢明に取り扱っている。君主よ、彼らの眠らぬよるの涙のうちに、また彼らの書の重荷の苦しみのうちに、汝の囚人のために智慧を学べ。そしてこのような道において智慧を求める人々に、汝の有っている生殺の権利を与えよ。君主よ、この世の浄福は陶冶された人間らしさであり、そしてこの人間らしさによってのみ啓蒙と智慧とそして一切の法律の内的浄福との力が働くのである。

ペスタロッチー「隠者の夕暮れーシュタンツだより」