2017年7月5日水曜日

感情は現在だけを見、理性は未来と時間の全体を見る点で異なり、現在の多くの想像力で理性は負ける。

 もしも感情それ自身が御しやすくて、理性に従順なものであったら、意志に対する説得と巧言などを用いる必要はたいしてなく、ただの命題と証明だけで十分であろうが、しかし、感情がたえずむほんをおこし扇動する、
「よいほうの道はわかっており、そのほうがよいと思う。しかし、わたしはわるいほうの道をたどる」
 のをみると、もし説得の雄弁がうまくやって、想像力を感情の側からこちらの味方に引き入れ、理性と想像力との同盟を結んで、感情と対抗しなければ、理性は捕虜と奴隷になるであろう。というのは、感情そのものにも、理性と同じように、つねに、善への欲求があるが、感情は現在だけを見、理性は未来と時間の全体を見るという点で異なり、そしてそれゆえ、現在のほうがいっそう多くの想像力をみたすので、理性はふつう負かされてしまうからである。しかし、雄弁と説得との力が遠いものを、現在のように見えさせてしまえば、そのときは、想像力の寝返りで、理性が勝つのである。
フランシス・ベーコン「学問の進歩」