2017年7月11日火曜日

年久しく島人の心に染みこんだものを、さし替え置きかえる近世史の舞台は幾度となく廻転したのである。

 さらに強力な現世の強国との交通が繁くなるにつれて、徐々として信仰の態様は変わってきた。最もはっきりと表層に顕れているのは統一主義、按司のまた按司、テダの中の大テダと呼ばるる者が、天に照るテダと相煥発するという思想で、あらゆる公の祭祀はことこどく、是を中心に組織せられ経営せられ、それと相容れない地方の慣行は、少なくとも説明のしにくいものになった。第二の特徴としては天地陰陽、いわゆる両極思想の承認であって、是は疑いもなく輸入の王道観の根底を成すものだが、それについて行こうとすると、海の世界の所属がまず不明になる。しかし年久しく島人の心に染みこんだものを、一朝にさし替え置きかえることができないのは、どこの民族もみな同じことだが、ことに巫言をさながらに信じていた国では、まずこの人たちの経験を改めてゆく必要があって、それを気永に企てているうちに、近世史の舞台は幾度となく廻転したのである。

柳田 国男「海上の道」