2017年7月27日木曜日

市民的、国家的制度は神聖なものとして祭り上げられ、ついには超自然的な神がかりの法律に退化する。

 もし諸君がランシェ島に眼を向けるならば、次のことをあやしまずにいられないだろう。誰がここにこれだけの人間を配置したのか? どんな交通機関があって、彼らをよその人間とつながらせているのか? 彼らは直径一里そこそこの島にいるが、人口の増加するにつれて一体どうなるのか? このことについてブーガンヴィル氏は何も知らない。
 私なら最後の質問に対してこう答えるだろう。彼らは殺戮しあうか、共喰いをするか、彼らの繁殖が何らかの迷信的な法律によって遅らせるか、祭司の刀にかかって死ぬかである。また私ならこうも答えるだろう。時のたつにつれて、首を斬りあうことを名誉と考えるようになったにちがいない。あらゆる市民的、国家的制度は神聖なものとして祭り上げられ、ついには超自然的な神がかりの法律に退化する。またそれと反対に、あらゆる超自然な神がかりの法律は市民的、国家的法律に退化するうちに、牢固たるもの、永久不変のものとなる。これは人類の幸福と教育にとって、不詳きわまる悪循環の一つである。
ドゥニ・ディドロ「ブーガンヴィル航海記補遺」