余つねにおもえらく「世上いまだ人力の範囲を定限したるものあらず、軽々速断して小節に安んずるは、ただちにこれ天らいを暴てんするものなり」と。すべからく志を立つる遠大なるべきを思い、空前の偉業を建てて以って蒼生を安んぜんことを希えり。
人あるいはいう「理想は理想なり、実行すべきにあらず」と。余おもえらく「理想は実行すべきものなり、実行すべからざるものは夢想なり」と。余は人類同胞の義を信ぜり、ゆえに弱肉強食の現状を忌めり。余は世界一家の説を奉ぜり、ゆえに現今の国家的競争を憎めり。忌むものは除かざるべからず、憎むものは破らざるべからず、しからば夢想におわる。ここにおいて余は腕力の必要を認めたり。然り、余は遂に世界革命者を以ってみずからに任ずるにいたれり。
宮崎 滔天「三十三年の夢」