2017年7月6日木曜日

日本がヨーロッパの「列強」に対抗するため、所有する領土を相当に拡張し、国民の精神をたかめる侵略策が必要とみた。

 東アジアの征服という西郷隆盛の目的は、当時の世界情勢をみて必然的に生じたものでした。日本がヨーロッパの「列強」に対抗するためには、所有する領土を相当に拡張し、国民の精神をたかめるのに足る侵略策が必要とみたのです。それに加えて、西郷隆盛には自国が東アジアの指導者であるという一大使感が、ともかくあったと思われます。弱き者をたたく心づもりはさらさらなく、彼らを強き者に抗させ、おごれる者をたたきのめすことに、西郷は精神を傾け尽くしました。その理想とする英雄はジョージ・ワシントンであるといわれ、ナポレオン一派を強く忌み嫌っていた態度よりみて、西郷隆盛が決して低い野望のとりこでなかったことがよくわかります。
 西郷隆盛は、このように自国の使命に対し高い理想を抱いていましたが、それでもなお、十分な理由なしまま戦端を開くつもりはありませんでした。そのようなことをすれば、自分の尊ぶ「天」の法に反することになるでしょう。しかし、はからずも、ある機会が訪れました。西郷隆盛は当然、それを日本が世の始めから託された道にすすむため「天」の与えた機会と受取ました。
内村鑑三、西郷隆盛『代表的日本人』