2016年8月30日火曜日

戦争を起こせるのは権力者

 戦争は個人の喧嘩ではない。戦争を起こせるのは国家権力の掌握者だけなのである。一般市民にとったは、戦争を支持あるいは反対することはありえても、和戦を決する権限はなかった。戦争は、それが単数(王・皇帝・スルタン・フューラーなど専政支配者)であれ、複数(民会・元老院・議会・委員会など支配者集団)であれ、その社会の権力の掌握者によって起こされたのであって、自然現象として、または化学反応的に起こったのではない。だからユネスコ憲章前文「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」の「人の心」の前に「権力の座にある」という一句を挿入すれば、決定的に正確となる。
 社会の権力者たちは、その社会構造こそが支配者たちの方針なり目的なりを、戦争を含めて基本的に方向づける。支配者たちが意識すると否とに関わらず、また歴史資料を残したか否かにかかわらない視点である。人類が原始から現代に到るまで大きな社会構造の変革を経てきた事が認められる。戦争の目的や原因にも社会構造に対応する変化があったことは確かであろう。すなわち、戦争の原因も目的も、決して無法則のそれではなく、基本的には社会の構造と発展に対応した歴史的な構造と変化なのである。

   小沢 郁郎「世界軍事史ー人間はなぜ戦争をするのか」