2016年10月8日土曜日

戦争で土地と小作人を求める

 不幸な時期においては、人間精神がこれまで立っていた高い場所から急激に下降し、代って無知のために、ここでは野蛮性が、かしこで巧妙な残忍性が、そして到るところに堕落と不誠実とが発揮されているのを、われわれは見るであろう。才能のある人々のひらめきも、心の寛大性や善意をもっている人々の特徴も、この深い暗闇を通しては、ほとんど何らこれを透視することはできなかった。神学的夢想や迷信的偽善が人間の唯一の精神であったし、宗教的不寛容が人間の唯一の道徳であった。聖職者の暴政と軍隊の専制政治によって両側から圧伏されていたヨーロッパは、新しい光明によって自由・人間性・徳が再生できる瞬間を、血と涙とのうちに待望していたのである。
 勝利者の無知と野蛮な風習とはよく知られているとおりである。けれどもこの愚劣な野蛮時代のさ中に、かの教養高き自由なギリシャの盛時を汚職した家内奴隷制度が破壊されるようになったのである。
 土地附属の農奴は勝利者の土地を耕作していた。この圧迫された階級は、勝利者の家庭のために奴婢を供給していたのであって、この従属関係は、勝利者の自負と気概とを満足させるに足るものであった。それゆえ、勝利者たちは戦争において、奴隷ではなく、土地と小作人を求めた。
 かつまた勝利者が侵略した地方にいた奴隷たちは大部分、戦勝民族が征服したある種族のなかから得た捕虜またはその子孫たちであった。かれらの大多数は征服された瞬間に逃亡するか、勝利者の軍隊に加わった。

ニコラ・ド・コンドルセ「人間精神進歩史」